味覚は口以外にも存在する
「味覚を感じるのは舌」そんなの当たり前、とお思いかもしれませんが、実は口以外の身体のいろいろな場所に味覚を感じる組織があることが分かってきています。
鼻や気管、耳管、胃や小腸大腸、尿道、これらの粘膜、そして脳や精巣、膵管にも味覚を感じる組織があるのだそうです。
一体何のために?とお思いでしょう。一つは身体に対する有害因子を排除するためのようです。例えば鼻粘膜には苦みを感じる組織があり、細菌、アレルゲン、ウイルス、不快な刺激などを感知し、そういった有害物質が体の奥深くに侵入しない様に、粘膜表面の繊毛の動きを速くしたり、呼吸制限をするなどの回避行動を起こさせたり、炎症反応を誘導したり、生体防御反応を引き起こします。同様に尿道でも細菌感染を、小腸では寄生虫感染を感知して防御反応を誘導するのです。
糖分を摂取すると血液中の糖分が増え、血糖値を下げるためにインシュリンが分泌されます。ところが腸に直接糖を作用させてもインシュリンが分泌されるのです。これが腸の甘味センサーによるものであることが判り、さらには苦味や甘味だけでなく、食物中のグルタミン酸などのうまみ成分を感じ取り、その情報が脳に伝わることで満足感や幸福感を感じたり、食欲を抑制したりすることも分かってきました。将来的にはこうした腸の味覚センサーの研究が、肥満や生活習慣病の予防にもつながるそうです。
ただ脳や精巣など、外界との接点のない部分の味覚センサーの存在理由は残念ながらまだ分かっていません。また、驚いたことに、植物にも味覚を感じる組織が存在することが分かってきたのです。
味覚を感じるセンサーを「味覚受容体」(みかくじゅようたい)と言いますが、体中のいたるところに味覚受容体があり、さらには植物にも存在することからすると、たまたま目につきやすい人間の舌にあった味覚受容体が味を感知することから「味覚」と名前に入っているだけで、味覚受容体の本来の最も重要なメインの仕事は身体の維持制御なのかもしれません。
令和6年7月
蒲郡市歯科医師会 中澤 良